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Sunday, July 3, 2022

オーストラリア労働党新政権は「親中」なのか?キーパーソンの気になる動向 - SAKISIRU

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【前編】アルバジーニ労働党政権の対中政策を占う

日本国際問題研究所研究員

9年ぶりの政権交代を果たしたオーストラリアにおいて、労働党アルバニージ政権の外交・安全保障政策はモリソン前政権と比べてどう変わるのか。

モリソン政権時代、新型コロナウイルス発生、明らかになった中国によるサイレントインベージョン、関税措置を含む経済的威圧、中国艦船によるレーザー照射、中国の太平洋諸島国進出などによる劇的に関係が冷え込んだ豪中関係。オーストラリアの労働党新政権は中国に融和的姿勢を取るのかどうか検討していく。

5月24日、首相就任直後の来日で岸田首相と会談したアルバジーニ氏(官邸サイトより)

総選挙で中国問題は争点にならず

総選挙期間中、中国がソロモン諸島と安保協定を結んだことに関連して、オーストラリアの裏庭である太平洋諸島国が中国の影響下にあるのは現政権のせいであるとアルバニージ党首は当時の与党モリソン首相に厳しく追及してきた。2022年3月までの消費者物価指数は前年同期比で5.1%も上昇し、不動産価格は2割ほど上がっているなど物価高騰による市民の生活は苦しいものとなった。

その中でも、保守連合(自由党、国民党)のモリソン政権はコロナ禍からの経済回復と外交・安全保障面での成果を打ち出すも、労働党もこの分野では同じ路線を打ち出し、中国への厳しい姿勢を改めて主張した。それによって、外交安保政策は差異が生じず、大きな政策争点にあまりならなかった。その結果、最低賃金の引き上げを含む社会保障の問題や環境問題への取り組みを前面に出した労働党が僅差で勝利した。9年間も同じ顔ぶれだった保守系政党に対して、ニューフェイスを期待した国民感情も理由の一つと言われている。

新政権の外交安保キーパーソン

マールズ副首相兼国防相(豪国防省サイトより)

新政権の対外政策はどうなるのか。アンソニー・アルバニージ首相に次ぐ政権ナンバーツーのリチャード・マールズ副首相がキーパーソンであろう。マールズ氏は国防相も兼務しており、2つの肩書きを併用しながら就任直後から外遊を続けている。日本人の一般感覚からすれば、外相が本来、外交安保政策の要を担うと考えるのが妥当であろう。外相を務めているペニー・ウォン氏も就任以降、外遊に尽力しているが、現時点での両者の外遊先を見ていると明確に差異がある。

ウォン外相は就任直後の総理と共に東京で開催されたクアッド首脳会談に出席した後、前述の中国とソロモンとの状況打開のために、ソロモンに行き、その後、サモア、トンガ、フィジーなどを含む太平洋諸島国への外遊を行った。中国系マレーシア人を父親に持つウォン氏は東南アジアにも出向き、ASEANとの関係構築を重視した。

他方で、副首相兼防衛大臣であるマールズ氏はシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)での講演を行い、3年ぶりの豪中防衛相会談、日米豪防衛相会談等を行った後、日本とインドに外遊した。そして、エリザベス女王(今年度はチャールズ皇太子が代理出席)が出席する英連邦首脳会議(CHOGM)に本来であれば首脳が参加するこの会議にも、マールズ氏が首相の代理として今年参加し、イギリスを含む各国の首脳と外交を展開した。ここで見えるのは、ウォン外務大臣が東南アジアや太平洋諸国を主にカバーする一方で、マールズ副首相クアッド(日米豪印)やAUKUS(豪英米)のオーストラリア側のキーパーソンであることが窺える。

マールズ氏の対中観は?

アルバニージ首相は選挙戦中から中国は「脅威」だと繰り返し述べるなど、融和的な姿勢は未だ見せていない。対して、マールズ副首相は就任から1ヶ月ほどで中国との関係について対外的にたびたび言及している。

シンガポールで行われたシャングリラ・ダイアローグでは、「我々は中国に利益があると考えており、豪中関係を非常に大事にしており関係を前身させたい」と述べた。中国の魏鳳和国務委員兼国防相との会談では「重要な一歩」と関係改善に意欲を示してきた。また、過去5年間で10回以上中国大使館に出向き、大使を含む幹部陣と面会を重ねてきた。これはオーストラリアでも大きく報道され、モリソン首相(当時)に「奇妙にも高い(回数)」と揶揄された。

それを如実に示しているのが、2017年の講演後の質疑で「中国は疑う余地なく『善の力』である」と主張するなど、国防相としてのマールズ氏の中国ネットワークに疑問が生じる。

中国の李克強首相はアルバニージ首相に祝電を送り、関係改善に向けた中国の好意を示した。「オーストラリアとニュージーランドとの対話を強化したい」と述べた王毅国務委員兼外相はオーストラリアとの連携に意欲を見せた。中国国営新華社通信も同日、「オーストラリアは中国との関係をリセットするときだ」との記事を掲載した。

しかし、王毅外相は意欲を見せつつも何か具体的な行動を豪側がおこすべきだと考えているが、オーストラリアの新政権はこれにすぐ応えるのは難しいであろう。その理由は後編で述べたい。

(後編は3日に掲載します)

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