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Thursday, May 27, 2021

パナソニック“次の100年”のキーパーソン、Shiftall 岩佐CEOに聞く(前編) - ITmedia

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 パナソニックは2018年、松下幸之助氏による松下電器産業の創業から100周年を迎えた。100周年時に行われた各種イベントでは、次の100年を迎えるにあたって「くらしアップデート」をスローガンに打ち出した。

 いわゆる“モノ”を販売する売り切りモデルから、ユーザーに寄り添って常に製品やサービスをアップデートしていく方向性へと切り替えていくという。

 100周年を迎えたパナソニックが大々的なイベントを開催する中、同時期に同社への“凱旋帰社”を果たしたのが「Shiftall(シフトール)」の岩佐琢磨CEOだ。

 岩佐氏は08年にパナソニックを退社し、ハードウェアスタートアップの「Cerevo(セレボ)」を起業。動画のリアルタイム配信用機器「LiveShell(ライブシェル)」シリーズなどのヒットを飛ばし、世界的にも注目を集めた。その岩佐氏が18年4月に設立したShiftallをパナソニックが買収する形で子会社化し、パナソニックに復帰したというわけだ。

株式会社Shiftall 岩佐琢磨CEO。1978年生まれ。03年、松下電器産業(現パナソニック)入社後、ネット接続型家電製品の商品企画を担当。08年5月、「ナンバーワンかつオンリーワン製品」の開発を目指し、株式会社Cerevo(セレボ)を設立。18年2月、株式会社ShiftallをCerevoの子会社として設立。18年4月、株式売却によりShiftallがパナソニックの100%子会社となり、パナソニックへ復帰した

 岩佐氏はパナソニックの暮らしの総合プラットフォーム「HomeX(ホームエックス)」の立ち上げに関わっただけでなく、次世代のパナソニックを担う若手を創出する社内アクセラレーションプログラム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャーカタパルト)」のプロジェクト複数とも関わっている。

 さらに社内外からユニークなアイデアを集めて製品・サービス化へ進めていく実験的なプロジェクトを次々と生み出す「100BANCH(ヒャクバンチ)」では、メンターとして当初から参画している。

100BANCHから誕生し、Shiftallが製造・販売するペンダントライト「RGB_Light」の発表会の模様

 無から有を生み出す“ゼロイチ”を実現するために、パナソニックを飛び出してCerevoを起業した岩佐氏が、何をしようとパナソニックの内部に戻ったのか。そして、実際に何をしているのか。今後、家電メーカーが生き残っていくためにどのような取り組みが必要なのかなどについて、岩佐氏に話を聞いた。

息をするように、新たなビジネスを作り出す必要性

 インタビューの冒頭で岩佐氏は、「繊維産業が衰退して、馬車が自動車になり、EV(電気自動車)になろうとしているように、すべての企業は現存のビジネスが全てなくなる前提で次を探さなければならない」と語った。

 家電メーカーは、20世紀初頭に家庭の電化が進むのと同時に勃興し、約100年繁栄してきた。これは自動車産業もほぼ同じだ。

 「大企業は家電や車を作って販売店で売ればもうかるという特定の勝ちパターンを確立したから成長した。しかし、ネットフリックスなどの登場でBlu-ray Discやプレーヤーを作って売るというビジネスが衰退したように、どのビジネスもいつかなくなる。製品のライフサイクルや時間がどんどん短くなっている中では、新規事業を作り、ダメならすぐにやめるという繰り返しを、息をするようにやり続けないと、大企業でも生き残れない」(岩佐氏)

 スマートフォンが登場し、ツイッターやインスタグラム、フェイスブック、ライン、ユーチューブなどのネットサービスに情報があふれかえったことで、人々の興味が一気に移り変わるようになったと岩佐氏は指摘する。

 「音声コミュニケーションサービスの『Clubhouse(クラブハウス)』などもドカーンと一瞬で立ち上がったのがいい例だ。誰もがアクセスするような大きなブームはすぐ過ぎ去ったが、今後それはさらに加速していく」(岩佐氏)

 岩佐氏はCerevo時代によく「グローバルニッチ」というキーワードを掲げていた。ニッチなニーズに応えるような製品でも、グローバルに展開すればビジネスになるという意味だ。Shiftallがパナソニック傘下になったとしても、この方針は変わらないという。

 そんな岩佐氏が、現在Shiftallとして力を入れているのが「VR(バーチャルリアリティ)」だという。

 VRがグローバルニッチな分野だから参入するという意味合いに加え、“パナソニック未開の地”であるVRに、一員として切り込んでいくことにも意味があった。

 「今まさにVRビジネスが急速に立ち上がっている状況だが、VRビジネスが立ち上がっている状況を見てから『VRデバイスを作ろう』と考えて開発を開始し、2年もかかったらブームが過ぎてしまう。これは、現実としてサービスが終わるという意味ではなく、VRのブームが15年だとしたら、最初の3年を失うのは15分の3を失うことになる。

 クラブハウスが人気だが、『音声ビジネスはまだこれからだから、しばらく様子を見て判断しよう』と考えてていたら、他社のビジネスが成功するだけで、自社では何もできずに終わってしまうということだ」(岩佐氏)

VR空間内で握手する岩佐氏のアバター(左)と、VR向けモーショントラッキング機器「Haritora X」をShiftallと共同開発するエンジニアのizm氏(右)のアバター(出典:Shiftallのプレスリリース

 アクションカメラの「GoPro(ゴープロ)」がまさにそうだと岩佐氏は指摘する。

 「アクションカメラというカテゴリーが人気だが、かつて『市場が立ち上がるのは、まだまだでしょう』と見ていると、あっという間にGoProが市場の90%以上を占めてしまった。『GoProも立ち上がったし、他のベンチャーも出てきたからうちもやろう!』と、先駆者の成功を見てから思い立っても、それで追いつけるわけがない。

 アーリーアダプター層から一般消費者までが興味を持つほどまで市場が立ち上がってから、満を持して高性能で最もコスパのいい製品を出せば売れるという時代は、すでに終わってしまった。ここ15年ほどの歴史を見ると『ファーストムーバー(あるいは、最初にジャンルを確立したジャンル・メイカー)の総取り』の時代になっている」(岩佐氏)

勝つための重要なカギは、持っている“ピース”の数

 しかしここで、最も重要なポイントは、たとえ無名のメーカーやスタートアップであっても、勝者総取りができることだ。

 「一時期大人気になったクラブハウスも無名だった。立ち上げたのはグーグルでもラジオ局でもないが、結果的には、全くWebサービスに興味のない女子高校生までもが注目してやり始めた。そのブームの結果、『ブランドの力が失墜した』などと新聞には書かれたが、それは確かだろう。

 しかしこのブランドの失墜は、大手企業がミスをしたのではなく、インターネット革命で消費者が賢くなり、大手メーカーのブランドが付いていれば売れる時代ではなくなったことを表している。GoProもそうだし、ロボット掃除機などもそう。ルンバとかソニーとかパナソニックとかというブランドではなく、『勝手に掃除してくれるから便利でいいね』ということが大切で、製品がノーブランドでも、海外製でも、的確な顧客体験を提供してくれる製品なら、ブランド名を気にしなくなってきている」(岩佐氏)

 以前は販売店が近くにあったり、サービスセンターで手厚いサポートを得られる国内メーカーが安心という価値観があった。いまだに根強く残っているのも確かだ。しかし最近では故障の連絡をすると、宅急便で送れるサイズの製品なら、荷物の引き取りが来て工場などへ持ち込まれ、修理後の製品が返送されてくるという流れは国内メーカーでも海外メーカーでも同じだ。

 韓国や中国の巨大メーカーの脅威にさらされてきた日本の大手メーカーだが、市場には圧倒的なスピード感のあるスタートアップまで加わってきており、さらには築き上げたブランド力まで失おうとしている。

 「そうなると旧態依然としたメーカーでは厳しい。私はパナソニックしか知らないが、私が見聞きしたところでは、他メーカーも同様の問題を認識しており、状況に対処するために組織や従業員のモチベーション、マインドの変革を5年、10年かけて行っている。

 中には、残念ながらまだブランドが強いと思っている人たちもいるが、確かにブランドが力を持つ領域も残っている。しかしあらゆる領域で変革が起きている今、そしてそれが加速するであろう今後も、我々メーカーは新しいものを作って売っていかなければならない」(岩佐氏)

 500を超えるグループ会社に約26万人もの従業員を抱え、優秀な人材が今まさに新たな事業を作り上げようとしているパナソニックだが、新規事業を立ち上げる上で最も強みになるのが、元々持っている領域が広いことだと岩佐氏は語る。

 「黒物専業メーカーとは違い、例えば炊飯器のように水を扱う製品や、本体内にAC(交流)100ボルトを通電させる製品、業務用では200ボルトを通電させる製品まで数多く作っている。

 パナソニックの強さは、非常に幅広く製品を持っていること。そこには開発者がいて、その品質に責任を持てる人がいて、それを作れる工場もある。新規事業はレゴブロックのようなもので、手元にどれだけ多くの種類のブロックがあるかが重要になる」(岩佐氏)

どのカテゴリーも、ブームを経て必ず衰退する

 パナソニックは100年以上の歴史を持つ老舗家電メーカーだが、そのビジネスは当然一貫していたわけではない。最初は電気が届き始めたばかりの家庭を明るくするための「二股ソケット」から始まり、1950年代には当時三種の神器と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫などが飛ぶように売れた。

 70年代から80年代にかけてさまざまな家電の普及率が90%を超えると、90年代には携帯電話ブームやゲーム機ブーム、2000年代には薄型テレビやHDD・DVDレコーダー、デジタルカメラなどがヒットするなど、時代を追うごとにブームが訪れ、そして去っていった。

 「どの企業でも新たなビジネスを立ち上げているため、会社全体のビジネス規模の推移はゆるやかだが、どの事業も基本的にはいつかピークを迎えて衰退する。今の家電メーカーが握っている大きな事業のほとんどは90年代、あるいは70年代や80年代など、もっと前に立ち上がったものだ。それらはもうとっくにピークを迎えており、これから急激に落ち込んでいくと予想される」(岩佐氏)

家電メーカーの中で、いくつものビジネスが立ち上がっては衰退し、現在はゆるやかな右肩下がりで推移している状況を解説する岩佐氏

 国内メーカーが以前に比べてグローバルな競争力を失ってしまった理由の一つとして、90年代から一気に立ち上がった携帯電話や薄型テレビなどデジタル化の波に乗り遅れた側面がある。それに比べて白物家電は日本独自のガラパゴス文化もあり、海外メーカーにとって参入障壁があったが、「00年以降は白物家電も、一部は辛い状況になっている」(岩佐氏)という。

 「テレビが売れるなら作ればいい。しかしテレビが三種の神器と言われた時代は、ブラウン管テレビを作ること自体が難しかった。だが今は、コンポーネントを組み合わせれば誰でも作れるようになっている。初期のGoProなど、レンズとセンサー、バッテリー、チップセットを組むだけで、誰でも作ることができる」(岩佐氏)

コンポーネントを組み合わせることで、今やさまざまな製品が簡単に作れるようになっているという

 今まさに、誰でも作れるようになった製品の代表格が「携帯音楽プレーヤー」だという。

 「携帯型音楽プレーヤーには長い歴史があるが、音楽データを読み取る複雑な機構(テープやMDのヘッド関連)がなくなってしまった現在、どのメーカーの製品を買ってもサイズや性能に大きな差がなくなってしまった。

 さらに高音質化の鍵を握る『DAC』というICは、今や誰でも買うことができるので、このICの選択で性能がおのずと決まってしまう。ソフトやデザイン面での差別化は可能だが、一般の方が得られる体験価値は、大手メーカーの高価な製品も、無名のメーカーの安い製品もそんなに変わらなくなっている。そのため、大手メーカーのほとんどが同ジャンルの製品から撤退してしまった」(岩佐氏)

 携帯オーディオプレーヤーの市場が縮小した理由は、もちろんスマートフォンやストリーミングサービスの普及などを含む複合的なものだが、前述の理由により、デジタルオーディオプレーヤーは00年代後半時点で、すでに、誰でも作れてかつ性能も頭打ちになっていたのだ。

 「普及が進んだ製品は、新たなテクノロジーやユーザビリティなど、イノベーションの起きる要因が複数ある。しかしそうしたイノベーションは、既存メーカーが強みを発揮しにくいため進んでほしくない方向性だった。自分たちがそこに進んだら、自分で自分の首を絞めてしまうことにつながる。

 しかし、こういうイノベーションは世界中で山のように起きていて、EV(電気自動車)、バイクや原付バイクの代わりになり得る『電動キックスケーター』なども同様だ」(岩佐氏)

 馬車が自動車に取って代わられたように、破壊的イノベーションは次々と起こっている。怖いのは、そのサイクルが50年や100年ではなく、圧倒的に短くなっていることだ。

 「それに対して従来のやり方、つまり50年のサイクルを前提にしたマインドセットを組織やチームが持っているというのはとても危険だ。パナソニックを含めて、各メーカーの経営者は少なくとも、その組織やマインドセットを変革しなければならないという認識を持っていると思う」(岩佐氏)

 ハードウェアスタートアップを自ら立ち上げて10年経営してからパナソニックに復帰した岩佐氏にとって、まだまだそのスピード感、新規事業創出に対するマインドは足りないという。では現在、どのようにパナソニック内部で取り組んでいるのか。後編で紹介していきたい。

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