出典:イード社プレスリリース
自動車特化型アクセラレーター「iid 5G Mobility」でモビリティ革命を後押しするイードとデバイス開発や認証技術の開発を手掛けるジゴワッツが共同開発したバーチャルキーシステムが、大阪府内でスタートしたカーシェア「Patto」に採用された。
カーシェアにおいて標準搭載化されつつあるバーチャルキーは、CASEの波が押し寄せる自動車業界全体においても存在感を増し始めている。
今回は、両社の取り組みをもとにバーチャルキーの有用性について解説していこう。
■イード×ジゴワッツ、バーチャルキー開発の経緯
スピード感あふれる事業化 提携から1年半でサービス実装へ
イードとジゴワッツは2018年8月、後付型のスマートロックシステム「バーチャルキー」の商品化に向けた開発と独占的な販売を前提に提携したことを発表した。
2019年3月にはアーリーアクセスプログラムの開始を発表し、第一弾としてスマートバリューがモビリティサービス推進プラットフォーム「Kuruma Base( クルマベース )」への採用を目的に参加表明したことも併せて発表された。
そして2020年2月、クルマベースを利用したカーシェアサービス「Patto(パット)」への採用が発表され、とんとん拍子でサービスが実装された格好だ。
クルマーベースを活用した「Patto」とは?
スマートバリューが提供するクルマベースは、シェアリングサービスなどの「クルマのサービス化」事業を行う事業者向けのプラットフォームを月額料金で提供するサービスで、クルマに接続する専用端末やクラウド上の管理コンソール、利用者向けスマートフォンアプリ、運用サポートサービスで構成されている。
車両側に特段の改造を施す必要もなく、車両の管理や利用者の決済情報の管理など、シェアリングサービスに必要となる一通りの機能が備わっている。
このクルマベースを活用したPattoは、スマートバリューと自動車メーカーのスズキ、丸紅の3社が実証実験として取り組むカーシェアサービスで、2020年2月22日から一年間、大阪府豊中市周辺エリアにおいてサービス提供する方針だ。
1分単位(下限15分)で利用可能なベーシックプランや月定額制のフラットプラン、長時間利用向けのパックプランなどがあるほか、「なめらか運転」「ふんわりアクセル」「加減速の少ない運転」「早めのアクセルオフ」「安心運転」「安全な走行速度」「定期休憩」の7項目で運転者のスコアを毎月算出し、スコアによって利用料金などが変動するテレマティクスサービスも導入している。
■バーチャルキーの仕組みは?
バーチャルキーは、クルマのスマートキーの機能をスマートフォンに置き換えるスマートロックシステムで、マスターキーを管理者や所有者のもとに置いたまま、利用許可された複数のドライバーがスマートフォンで受信したバーチャルキーでドアの施解錠やエンジンの始動を行うことができる。
ジゴワッツの「key.bo/t」認証テクノロジーを利用した認証サーバーとスマートフォンアプリ、Bluetooth LE通信器を内蔵したバーチャルキー専用車載器によって構成されており、スマートキー導入車両であれば基本的にメーカーを問わずあらゆる車両に導入することができ、車載器の設置も電源供給のみで可能という。
車両の貸出し管理システムとの連携を重視しており、サーバー間のAPI連携により既存のレンタルシステムにスマートロック機能を提供できる構成となっている。カーシェアリングサービス事業者のアプリにバーチャルキー機能を組み合わせることも可能だ。
一例として、Patto利用者は予約開始15分前からアプリに利用可能な予約車両とともに「START」ボタンが表示され、車両のそばでボタンを押すとBluetooth接続が行われる。接続後はドアロックボタンで施解錠するだけの非常にわかりやすいシステムとなっている。
■バーチャルキーの有用性は?
カーシェアサービスで本領発揮
マスターキーを使用せずに複数の会員が一台のクルマのカギを利用できるバーチャルキーシステムは、カーシェアなどのシェアリングサービスでその本領を発揮する。
従来、レンタカーやカーシェア事業においては各利用者はマスターキーがないと車両を扱うことができないため、有人対応による受け付けを要することが一般的だった。事業者サイドは人件費が必要となり、利用者サイドも煩わしい手続きが必要だった。
こういった環境に変革をもたらすのがバーチャルキーだ。利用者のスマートフォンにその都度仮想キーを提供することで、特段の手続きを要することなく一台の車両の利用権限を複数人に的確に与えることができるようになった。予約や決済をはじめ、利用に関わる全ての手続きがスマートフォン一つで可能になったのだ。
人件費の削減によりサービス価格を低く抑えることもできるため、シェアサービス普及の「カギ」とも言える技術なのだ。
現行の道路運送車両法の保安基準上、マスターキーを車内で管理する必要があるようだが、スマートフォンなどの電子ソリューションを媒体とするデジタルキーを新たに施錠装置として認める保安基準の改正も議論が進められており、今後のバーチャルキー導入を後押しする可能性が高い。
自家用車向け、CASE領域でも
個人による所有から利用へとモビリティを取り巻く環境が変化していく中、各種モビリティサービスで需要が増すバーチャルキーだが、自家用車向けの機能としても有用だ。
すでに欧米では普及が始まっており、コネクテッドサービスの一つとして位置付けられ、緊急通報システムやインフォテイメントシステムなどと連動するなど、スマートフォンを活用したサービスはどんどん進化している。
コネクテッド化、自動運転化、シェアサービス、電動化のCASEを構成する各分野においてデジタル化の波が押し寄せているが、旧来のアナログ的なカギがスマートキーに置き換わったように、スマートキーもさらに進化し、コネクテッド機能を活用してさまざまなサービスと結びつくよりスマートなカギへと進化していくのだ。
■【まとめ】シェアサービスから自家用車へ デジタル化の波とともにバーチャルキーも標準化へ
シェアリングサービスにおいて搭載が標準化しつつあるバーチャルキーは、そう遠くない将来、さらなる進化を経て自家用車への導入も始まるものと思われる。国内でも、トヨタや東海理化、ヨコオなどバーチャルキーシステムの開発を手掛ける企業は増加傾向にあるようだ。
デジタル化に伴うセキュリティ面の強化が必須となるが、コネクテッド化による連動サービスの可能性は大きく広がっており、バーチャルキーの存在感もより大きなものへと変化していくことは確実だ。システムそのものや拡張サービスの開発、そしてセキュリティ分野の開発促進に期待したい。
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