本作は、幼くして母を失い、継母に家を追い出された主人公・千代が、ラジオドラマへの出演で全国的に名を広め、「大阪のお母さん」と呼ばれるまでを描いた作品。人生をひたむきに生きる人間の哀歓や苦衷を重くなりすぎないように描き出し、時に視聴者の予想を超える“伏線回収”などで楽しませてくれた。最終週を前にインタビューに応じた八津氏は、キャストについて次のように語っていた。
――千代役の杉咲花さんはいかがでしたか?
【八津】率直に思いつくのは、杉咲さんでよかった!ということ。制作発表(2019年10月30日)の時、杉咲さんのお芝居に関しては何の心配もしていません、と言った記憶があります。確かにそう思っていたんですが、実際に杉咲さんが演じた千代は、その時の僕の予想を遥かに越えていました。千代という人間をものすごく真正面から受け止めて演じてくださった、というのが正直な感想です。
千代になりきって、千代の感情でお芝居をされる。だから熱量がすごい。僕が書いた脚本上の千代と、時にイメージがずれる瞬間もありました。あったんですが、脚本通りのロジカルなお芝居よりも、千代になりきった杉咲さんの熱量の高いお芝居を優先してください、とお伝えしていました。それくらい杉咲さんのお芝居はなんというか…、爪痕を残したというか、朝ドラの歴史に刻まれるお芝居だったと思います。
――具体的には?
【八津】数え切れないんですけど…、例えば、第17、18週。戦況の悪化で劇団は解散しますが、千代だけが頑なにそれを拒んで、お芝居を続ける、一人になってもやると言い張る。その後、焼け跡で衝動的に一人芝居を始めて、町の人や警察官から、浮かれている場合じゃないと責められ、千代は傷つく。放送を見た視聴者からも「千代は自分勝手なんじゃないか」といった批判がありました。批判はあるだろうなと思ってはいたんですが、竹井千代という人間をブレずに描いた結果、お芝居を続けることで、みつえをはじめいろんなもの失った人たちの心を救うし、自分の心も救われる。そういう脚本だったんですが、これを演じるのは相当、胆力がいるな、と思っていました。それを見事に杉咲さんは演じてくださりました。
そして、第18週は、「人形の家」のせりふを千代が叫ぶシーンもあって、僕は脚本上ロジカルに起伏を作りたくなるので、コミカルな方に振っておいて、「人形の家」に持っていく。台本上はそう書いてあったところが、おかまいなしに杉咲さんの思い描く竹井千代一直線にその思いと熱量を放出。まさに杉咲さんのお芝居を優先してよかった。おかげですごく評判のいいシーンになりました。
――トータスさんが演じるテルヲはいかがでしたか?
【八津】トータスさんには本当に頭が下がります。ありがとうございました。トータスさんでなかったらテルヲは成立しなかったんじゃないか、と言っても過言ではないくらい。すごくテルヲになりきってくださったと思っていますし、持ち前のチャーミングさがテルヲを救ってくれた、と僕は思っていました。
これまでの朝ドラと『おちょやん』の一番違うところは、血のつながった家族が主人公の拠り所にならない、というところ。一方で、千代は血のつながった家族であるテルヲやヨシヲを原動力にして生きている。そのあたりのことをきれい事にしないように、ご都合主義にならないように、すごく気を使いました。
ついつい、テルヲのこともいい人に書きたくなっちゃうんです。もちろん、人間の嫌な部分を朝から見せて、視聴者を不快にさせるつもりはみじんもなかったのですが、人生の非情さから逃げずにしっかり向き合って、そこからどうやって人は再生していくのか、やり直せるのか、許せるのか、を描きたかった。ダメ人間でも頑張って生きていかないといけないし、どこかで許してあげられるような、もうちょっとやさしい世の中になってほしいな、という思いも僕の中にありました。
――そのほか気になる登場人物は?
【八津】意外と面白かったのは、天海トリオ。初代天海天海の時代からの劇団員で、一平を幼い頃から見守ってきた、須賀廼家天晴(あっぱれ/渋谷天笑)、須賀廼家徳利(とっくり/大塚宣幸)、漆原要二郎(大川良太郎)の3人の関係性がすごく好きでした。
千代を最後まで支える存在としてみつえ(東野絢香)のこともブレずに書けたと思います。僕は女性を描くのがそんなに得意じゃないので、千代とみつえの女同士の友情が「少年ジャンプ」的な友情になっているかもしれないんですけど、みつえも僕としては好きなキャラクターでした。寛治(前田旺志郎)もよかったなぁ。
――スピンオフドラマを期待しています!
『おちょやん』は、あす15日(前8:00 総合/前 7:30 BS4K・BSプレミアム)放送の最終週の振り返りをもって終了。5月17日からは連続テレビ小説第104作『おかえりモネ』を放送。主演は清原果耶。
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