6月にリリースされた新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」、筆者もリリース日から使っているが、先日、「COVID-19にさらされた可能性があります」という通知を受け取った。
しかし通知は受け取っても、アプリ上では接触を確認できなかった。どうやらこれは不具合に近い事象のようで、筆者が感染者と濃厚接触したとは限らないようだ。ネット上を検索してみるとチラホラと同様の事象の報告もある。頻繁に起きる事象ではないようだが、せっかくなので何が起きたかをレポートしたい。
まず前提知識として、COCOAの概要や仕組みを大雑把に説明しておこう。
COCOAは日本の厚生労働省が開発・運用しているアプリだ。知らないあいだに感染者と濃厚接触した人物に対し、接触があったと通知することで、早めの検査・隔離などの対応を促し、感染拡大を防ぐことを目的としている。アップルとGoogleが共同策定してiOSとAndroidに組み込んだ「Exposure Notification」という仕組みを使ったアプリで、iPhoneとAndroidスマホで利用できる。
COCOAが設定されたスマートフォンは、固有情報である「キー」を近くにあるスマートフォンとBluetooth経由で自動交換する。受信したキーは14日間、スマートフォン内に保存される。厚労省からは毎日、新規の感染確認者のキーリストが配信されていて、COCOAは保存されたキーと配信されたキーに一致があるかどうか、チェックする。もしキーが一致すれば、「感染が確認された人と過去に接触していた」ということになり、通知される。
医療機関などで感染が確認されたCOCOAユーザーは、過去14日間に自分が送信したキーを厚労省に任意で提出できる。厚労省はそのキーをまとめ、毎日、全国のCOCOAユーザーに配信する。当たり前だが、COCOAを使っていない人が感染確認されても、キーは配信されないので、接触していても通知されない。
大雑把に言うと以上のような仕組みだが、実際にはプライバシー保護のためにキーを何種類も使い分けたり、暗号化やハッシュ化を組み合わせたりと、いろいろなことをやっている。位置情報や個人情報は一切扱わず、「通知」はできても「追跡」はできない仕組みだ。
詳しく知りたい人は厚労省やアップル、Googleが公開している仕様書を読んでいただきたい。
いきなり通知が来ると、かなりビビる
さて、ここからは筆者が遭遇したケースを紹介しよう。
8月8日(土)の朝、メインのスマートフォン(iPhone)に「COVID-19にさらされた可能性があります」という通知が入っていることに気がついた。「ヤベェ、ついに来たか」と焦って通知をタップしてアプリを表示させたが、アプリ上では「陽性者との接触は確認されませんでした」と表示されるばかり。
実はこれ、よくある不具合的な挙動らしく、厚労省のCOCOAのQ&Aページの「問23」には、「Androidスマホの場合は別の通知かもしれないけど、iPhoneの場合はメールで問い合わせてね」と案内されている。
「なんじゃそりゃ」と思うものの、メール問い合わせの前に確認しておくべきポイントがある。
というのも、COCOA関連では毎週1回、正常動作していることを確認するための通知があり、そちらと混同している可能性もあるからだ。通知をちゃんと確認すれば良いのだが、筆者のように焦って通知をタップしてしまうと、通知は消えてしまう。そんなときにも、実際にキーの一致があったかどうか、確認する方法がある。
iPhoneの場合、「設定」の「プライバシー」にある「ヘルスケア」の項目の一番上に「COVID-19接触のログ記録」という項目がある。こちらで「接触チェックの記録」を見ると、そこで過去14日間に厚労省から提供されたキーセットのリストを確認できる。各項目内では「一致したキーの数」というのを確認できるのだが、これが1以上のものがあれば、「感染確認者が近くにいた可能性がある」ということになる。
iPhoneだとこのリストは数が多く、確認が大変だ。もしMacを持っているなら、ファイルに書き出してAirDropで転送すれば、テキストエディタで検索もできて楽チンだ。
Androidスマホの場合、機種やOSバージョンによって違うと思うが、たとえばPixel 4a(Android 10)の場合、設定の「Google」にある「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の濃厚接触の可能性の通知」という、長い名前の項目から、「アプリからの接触確認リクエスト」を選ぶと、厚労省から提供されたキーセットを確認できる。iPhoneと違って数日分が1つにまとめられているので、確認は簡単だ(ほかのAndroidスマホでは確認してない)。
筆者は8月8日の午前1時に配信されてきたキーのうちの1つで、「一致したキーの数」が1となっているものを発見した。そのスクリーショットを添えてCOCOAの問い合わせ窓口にメールしたところ、翌日には以下のような返信をもらった(ちなみに文面自体は転載や二次利用はダメとのこと)。
- 一致したキーが1以上なので、陽性者との接触があったと判断して対応せよ
- 体調に不安があればコールセンターに連絡せよ
- 体調に変化がなく、感染者との接触に心当たりがなければ連絡は不要
- 「キーが一致しててもアプリ上で接触が確認されない」という事象は現在調査中
さらに8月12日(水)の午前1時にもう1回、またも「COVID-19にさらされた可能性があります」という通知を受け、「一致したキーの数」が1となっている診断キーを発見した。しかしやはりアプリ上では「陽性者との接触は確認されませんでした」と表示される。同じ現象なのでメール問い合わせはしなかった。
以上が筆者が経験したCOCOAの接触通知である。
濃厚接触は記憶にございません
メールでは「陽性者との接触があったと判断して対応せよ」と言われたが、筆者はいわゆる濃厚接触ではない、と判断した。というのも、筆者の行動を振り返ってみても、COCOA基準レベルの濃厚接触があったとは考えづらかったからだ。
COCOAは過去14日間の濃厚接触を判定するので、8月8日未明に厚労省から配信された感染確認者のキーは、7月24日~8月7日に筆者のスマートフォンが受信して記録したキーと一致したわけだ。濃厚接触の基準は、「概ね1メートル以内の近接した状態」で「15分以上」となっている。
アプリ内で濃厚接触が確認できる場合、接触した正確な日付などが分かるらしいが、今回の筆者のケースではそれができない。しかし期間中の自分の行動を振り返ることはできる……のだが、引きこもり・一人暮らし・ぼっちな筆者には、この期間中に「1メートル以内」と「15分以上」の濃厚接触に心当たりがない。
筆者の人生には濃厚接触が不足し過ぎている。
期間中、外食には3回ほど行った(当然ソロ飯である)。その中でも8月7日16時ごろに行ったフードコートは、後ろのテーブルに座った客と「1メートル・15分」の基準を満たした可能性が高いが、通知のタイミング的に、その客が夜までに感染確認されてCOCOAに陽性登録してキーが配信されたとは思いにくい。ほかの外食はいずれも店内がガラガラだったし、長時間滞在もしなかったので、「1メートル・15分」の基準には達しなかったはずだ。
何回か行ったプライベートジムでは、トレーナーと1対1で約1時間ほど接触した。濃厚接触と言えるくらいの近距離だ。しかし予定のキャンセルついでに電話で聞いてみたが、そのジムでは感染確認者はいないというし、そもそもトレーニング中はスマートフォンをロッカーに置きっぱなしにしているので、COCOAの通知は関係ない。
そのほかには週に2回ほど、スーパーなどに買い物に行っているが、そこで「1メートル・15分」を満たす接触は考えにくい。ジムに行くために何度か鉄道を利用したが、乗車時間も2駅5分ほどで、駅での待ち時間を含めても「15分以上」にはならない。
何があったのか、推測してみた(あくまで「推測)
「通知があって一致キーもあるけど、アプリ内で接触を確認できない」という状態がどのような状態なのか、COCOAのサポートセンターも「調査中」としているので、正確なところはわからない。しかし筆者個人としては、「1メートル・15分」ではない、緩い接触があったのではないか、と推測している。
厚労省やアップル、Googleが公開している仕様書を読んでみると、接触の判定は「(1)キーの一致チェック」と「(2)一致したキーの接触リスク(接触時間や接近距離)のチェック」の2段階になっていることがわかる。前者はOSに組み込まれた全世界共通の「Exposure Notification」のフレームワークが、後者はCOCOAなど各国行政のアプリが行なうようだ。
キーが一致しても、接触時間と接触距離が濃厚接触の基準に達しないことがありうるはずだ。そのことから筆者の遭遇した事象では、OS内のExposure Notificatinフレームワークがキーの一致を検出したため通知が出たが、COCOAが「接触リスクのチェック」をしたところ、当該キーを濃厚接触と判定せず、アプリ上の表示が「確認できなかった」となったのではないか、と推測している。
受け取った通知の文言は、「COVID-19にさらされた可能性があります(改行)新型コロナウイルス陽性登録者と接触した可能性があります。詳細はこちら。Appからその接触の日付、期間、および信号の強さにアクセスしました。」となっている。接触した可能性があったため、OSが保存している受信キー(日時や信号強度も記録されている)にアプリがアクセスしたと言っているが、接触時間や信号の強さが濃厚接触の基準に達していたとは言っていない。そういうことなのではないだろうか。
ただ、これはあくまで筆者の推測だ。そもそもプログラマでもない筆者が簡単に推測できるような話であれば、厚労省も「メールで連絡して」というような案内のままにはしないだろう。濃厚接触判定の詳細は仕様書にも書かれていなかったのでわからない点が多いし、もっと複雑な問題も絡んでいるのだと思う。
しかしとりあえず筆者は、今回の自身のケースについて、過去の行動履歴やCOCOAの挙動から、濃厚接触ではない接触の可能性はあるが、「1メートル・15分」の濃厚接触はなかった、と判断した。
別の日にも通知があったが、これもバグとかでなくても、ありうる話だと思う。たとえば外食時、同じ店内の近い位置に家族連れなどのグループが座っていたとする。後日、グループのうち1人で感染が確認され、それをきっかけにグループ内の別の人物も検査をしたところ、感染が確認されたとなれば、時間差で陽性登録され、時間差でキーが一致することになる。別々のタイミングで無関係な感染者2名と接触したというより、こちらの方が可能性としては高いだろう。
「接触があったと判断して対応」とは? 筆者はどうしたか。
厚労省からのメールでは、「陽性者と接触があったと判断して対応せよ」とあったが、何をすれば良いか、具体的な指示はなかった。しかし実際のところ、体調が悪いわけでもなく、濃厚接触していないなら感染した可能性も低いので、それほど特別なことはやっていない。
まず体調管理だが、普段よりもこまめに体温を計測するようにした。あと体調が悪くなると心拍数が上がることがあるので、Apple Watchなどで計測している安静時心拍数も目安の一つとした。こうした体調チェックで異常があったらすぐに相談窓口に連絡を取れるようにしたが、幸いにも体調不良の兆しは微塵もなかった。
念のため、10日ほどは人は会わないようにした。感染した可能性が低いとはいえ、上記の状況は推測でしかなく、推測だけを根拠に軽率な行動は避けたい。
プライベートジムの予定もキャンセルしたし、友人からのビールのお誘いも断った。とくにマスクを外出先で外すことを避けたいので、通知を受けてからは一人でも外食には行っていない。
しかし完全に外出しないわけにもいかないので、混雑を避けつつも買い物には行っている。マスクはしているし、「エコバッグあります」くらいしか発言しないので、もし筆者が感染していたとしても、人に感染させるリスクはほとんどないはずだ。
もはや感染者とすれ違うのは当たり前かも知れない
今回、COCOAの通知を受け取ってから、筆者は「いつでも感染者とすれ違い、感染する可能性がある」と考えるようになった。
COCOAに陽性登録する感染者数は、確認感染者数の1%程度。街にはCOCOAを利用しない感染者が無数にいるのだ。最近の都内の感染者数などから大雑把に概算すると、大きな街であれば、数十回の外出で1回くらいは感染者とすれ違う、そのくらいの割合で感染者がいると考えられる。
とはいえ、感染リスクが高い接触ケースが多いかというと、そうでもない。マスクをした状態で街ですれ違う程度ならば、感染する可能性は考慮しなくて良いほど低いだろう。マスクを外した状態で会話をする人と接触する機会、たとえば外食・会食を避ければ、感染リスクをかなり減らすことができる。
今のような状況だと、外出する際には、「そこにいる人たちは感染しているかも知れない」「自分も感染しているかも知れない」という考えを頭の片隅に置いておくべきだ。だからと言って、過剰に反応する必要はないし、自分や他者の生活を過剰に犠牲にしてはいけないとも思う。自分と他者の生活を尊重した上でできる感染対策はいくらでもあるし、それだけでも十分に効果がある。
新型コロナウイルスが感染拡大してから半年あまりが経過した。まだまだわからないことは多いし、収束には時間もかかるだろう。あまり無理をせず、しかし自分の健康のためにも程よく感染対策をしつつ生活を送っていきたいと思う。
とくに筆者は40代の高血糖・高血圧おじさんで、感染したときのリスクがやや高めなので、気を緩めないように、体調に気をつけつつ、無理しないようにしていきたい。
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September 03, 2020 at 06:30AM
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