いろいろなパーツを組み合わせて自分好みの1台を作る「自作キーボード」について紹介する本連載。前回は自作キーボードのキットを1つ組み上げ、キーボードを構成する各パーツを簡単に紹介した。
今回から2回にわたり、「キースイッチ」について深く掘り下げていく。
キースイッチは、キーボードの打鍵感を決める上でとても重要なパーツだ。キーキャップやケースといった他のパーツも打鍵時の音などに影響してくるが、キースイッチはそれ自体がキーの感触や重さ(荷重)といった基本的なパラメーターを決定づける。
キーボードについて明るい読者なら「おっ、今回は赤軸とか青軸の話だな!」とピンときただろう。もちろん“軸”と呼ばれる部品の話も出てくるが、今回はキースイッチの入力方式の大まかな分類と、その中でも自作キーボードでメインの話題となる「メカニカル方式」の概要についてお伝えしていく。
ぺかそ(@Pekaso)
自作キーボード「Fortitude60」作者。自作キーボードの基本から設計方法までまとめた同人誌「BUILD YOUR OWN KEYBOARDs」を執筆。
連載:「ハロー、自作キーボードワールド」
自作キーボードの作者であり、キーボード関連のニュース動画「ほぼ週刊キーボードニュース」を配信するぺかそとびあっこが、自作キーボードの世界の“入り口”を紹介していく。
そもそもキースイッチって?
キースイッチはキーボードのキーを構成する一つ一つのスイッチのことで、通常はこのキースイッチが100個程度ずらりと並んだものがキーボードとなる。
一口にキースイッチといってもさまざまな方式があり、コスト重視のものから打鍵感を追求したものまで幅が広い。
比較的安価なキーボードでよく見られるキースイッチは「メンブレン方式」と呼ばれるものだ。名前の通り、シート状の膜(メンブレン)に導電性の配線があり、これを2枚貼り合わせ、打鍵感を与えるための「ラバードーム」という、押すとへこむゴム部品がついている構造が一般的だ。
メンブレン方式の利点はなんといっても製造コストの安さで、PCの付属品に採用されていることもあれば、1000円程度で市販されている製品も大体これだ。弱点はキーを個別に交換できないこと。1つでも壊れるとキーボードを丸ごと取り換えなければならない。
また、ノートPCや薄型キーボードの多くはメンブレン方式の発展形である「パンタグラフ方式」を採用している。薄型化したぶんキーの端をぐらつかないようにするため、電車の車両上部にあるようなパンタグラフ機構が組み込まれている。
対照的に高級な方式として知られるのが「静電容量無接点方式」だ。他の方式にあるような電極同士の機械的な接触が無いため接点が摩耗する心配がなく、耐久性や信頼性に優れる。過去にはIBM PCのキーボードなどさまざまなメーカーが採用していたが、現在では実質的に東プレのREALFORCEシリーズやPFUのHHKBシリーズなどのスイッチのことを指す。海外では開発元の名前を取って「Topre Switch」と呼ぶ事が多い。
自作キーボードのメインはメカニカル方式
メンブレン方式は打鍵感の差別化や向上が難しく、静電容量無接点方式は原理的に実装が難しいため、現状自作向きとはいえない。
現在自作キーボードのメインストリームとなっているキースイッチの方式は「メカニカル方式」だ。名前の通り機械式接点を持つキースイッチであり、さまざまな構造のスイッチがある。
その中でも自作キーボード向けに使われるキースイッチには大きく分けて、「Cherry MX系」と「ALPS系」の2系統がある。
ALPS系のキースイッチはAppleが過去に多くのモデルで採用していたこともあり、往年のMachintoshユーザーであれば触れたことがある人も多いだろう。しかしアルプス電気(現アルプスアルパイン)が製造していたこのALPS系スイッチは既に製造終了で、新品のキースイッチは手に入らない。中古のキーボードから取り外すか、カナダMatiasが製造しているクローン品の購入が主な入手手段だ。
対してCherry MXは独Cherryが現在も製造しているキースイッチだ。そのため、2020年現在メカニカルキーボードとして販売されているキーボードのほとんどはCherry MX系キースイッチを搭載している。
自作キーボードにおいても、多くの部品はCherry MXを基準に作られており、デファクトスタンダードとなっている。
キースイッチの分類は3種の感触と重さ
キースイッチを区別する主要なパラメーターはキーの感触だ。
キーの感触、つまりキースイッチからのフィードバックはとても重要。なぜならユーザーがキースイッチを押し、電気的に機械(キーボードやその先にあるPCなど)へ伝わったことが指先の感覚で確認できるからだ。
スマホなどのタッチパネルを主な入力インタフェースとするマシンはスイッチの感触がないため、スピーカーからの音やバイブレーションでユーザーに入力の感覚をフィードバックしているが、それをキースイッチで機械的に作り出せるのがメカニカルキースイッチの魅力でもある。
そんなキースイッチの感触は、リニア、タクタイル、クリッキーの3つに分類される。それぞれの特性は指先の感触や音によって分けられる。
スムーズにキーが下りる「リニア」
リニアタイプのキースイッチはキーを押した際のキースイッチの上下動に引っかかりがなく、他のタイプのような明確な触覚的フィードバックは返ってこない。逆に言えば、押下時の重さ(荷重)や製造時の精度によるスムーズさなどが明確にわかるタイプだ。Cherry MXでいえば「Cherry MX Red(赤軸)」「Cherry MX Black(黒軸)」「Cherry MX Silent Red(ピンク軸)」がこれに該当する。
“クンッ”とした抵抗感が特徴の「タクタイル」
タクタイルタイプのキースイッチは、全くフィードバックが無いリニアタイプに対してキーの押下時の途中で荷重が変化する「バンプ」という動きをする。文字で表現するには難しいが、押している最中に“クンッ”といったこの抵抗感を含めた感触を「タクタイル感」と呼ぶ。押下時に音は出ないが指先の重さとして明確なフィードバックがあるため、他のタイプよりとっつきやすいと筆者は考えている。Cherry MXでは「Cherry MX Brown(茶軸)」が該当する。
大きな音が出る「クリッキー」
クリッキーはタクタイル同様のバンプに加えて明確な音のフィードバックが加わったタイプだ。クリックサウンドが分かりやすいことから、機械の操作パネルなどに使用されることもある。入力していることが明らかに分かる反面、連続して入力していると音がうるさいと感じられることもあり、使用する環境には注意が必要だ。Cherry MXでは「Cherry MX Blue(青軸)」が該当する。
キー押下の力強さを決める「荷重」
上に挙げた3つの感触に次いで重要なのが荷重だ。つまりはキーを押す際の重さであるが、スイッチがオンになる辺り(作動点)で45g、完全に押し下げた際(底打ち)で60gのスペックが標準とされている。実際にはキースイッチの作り(精度)やキーキャップの組み合わせでいろいろと打鍵感が変わってくる。
重すぎて疲れたり、軽すぎて指を置いただけで反応したりしてしまうなど個人の好みもあるので、とりあえず適当な物を買ってみてそれを基準に次を選ぶと良いだろう。
次回は、メカニカル方式でCherry MX互換のキースイッチが自作キーボードの世界で多様な進化を遂げていることや、キースイッチ選びのその先にある“沼”の入り口を案内する。
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